IT大国エストニアから学ぶ Part2
日本の労働人口はこれから大きく減少する。それに対応していくために、AIによる仕事の代替はよく言われる話だ。ただ、エストニアの事例はまた別の視点から、サービスの効率化を考えるヒントを得られるかもしれない。
個人情報の主権を個人へ
エストニア政府は、国民に対し「eIDカード」を発行している。この一枚で身分証明書、運転免許証、健康保険証、選挙の投票券などの役割を果たすのだ。また、国民一人ひとりが出生した時に番号を与えられる。日本のマイナンバー制のようなものだ。
このカードで行政サービスや民間サービスが受けられるが、電子著名は効率化に大きく貢献した。これは紙文書における印章やサインに相当するものであるが、これだけでも年間5日分の仕事を削減することに成功した。
ただ、重要なことはこれだけでない。
国民は安全に自らの個人情報にアクセスすることができます。さらには、その情報に誰がアクセスしたかの確認や特定ができます。〔参考1より〕
個人データには国や基盤を運営する事業者であっても本人の許諾なしにアクセスすることはできず、監視も許しません。〔参考2より〕
つまり、個人データの主権を個人に帰属させているのだ。個人データを勝手に使ってビジネスが行われるような現在のネットワークとは全く違う。個人情報の取り扱いについて、利用者個人の意思が尊重されるようなシステムが確立している。
仮想国民は新たな国家観を作り出すのか
エストニアには、エストニア国民でなくても仮想住民になれる電子住民権「e-Residency」という制度が存在する。平尾憲映氏はこのバーチャル住民制度について、以下のように説明する。
エストニア以外に居住する外国人が、オンラインでエストニアに銀行口座の開設をしたり法人を設立したりできるため、簡易にEU市場の拠点を構えることができます。エストニア政府としては世界中から投資を呼び込み、税収を得られる利点があります。〔参考2より〕
現在では、160以上の国から5万人以上のe-Resident(仮想住民)が誕生している。仮想住民制度を取り入れる国は、今後増えていく可能性が高い。
この制度によって生み出される仮想国民は新たな国家観を生み出すだろう。それは、民族的・宗教的に結びつく共同体とは異なった、ある種の機能的な国家になるだろうか。いずれは複数の国家に所属し、「国民」ではなく「個人」としてグローバルに活動を展開する人が登場するのかもしれない。
【参考】