みやしろ町から

大学生が「日本のこれから」を考えるブログ

古生物学の最新を追う旅

恐竜といえば、これまで子供向けのビジュアル本や新書などが多く、内容についても発掘記や特定の内容に特化したものが多かった。しかし本書は違う。概説から系統樹、解剖学を踏まえて恐竜研究がどのような方法で行われているのか、そして研究がどこまで進んでいるかを体系的に知る事ができる。まさに格好の教科書だ。

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今回は、ダレン・ナイシュ、ポール・バレット 著,吉田三知世 訳『恐竜の教科書ー最新研究で読み解く進化の謎』(創元社、2019年)を読んで、印象に残った内容を紹介しながら、恐竜研究が現代に生きる私たちにどのような教訓を与えてくれるのかについても考えてみたい。私は残念ながら研究者ではない。よって研究の消費者の視点から本書を解釈していく。

 

未知との遭遇

恐竜研究は未知との遭遇の連続である。今でこそ私たちは、過去の地球上に恐竜が存在している事を知っているが、それを知らない過去の人々にとっては、恐竜の化石の奇妙さに驚くばかりだったであろう。

化石は神話の英雄や怪物が残したものだと考える者たちもいた。実際に一部の専門家のなかには、神話に登場する動物は、絶滅した動物の化石を解釈しようとして生まれたものだと主張する者たちもいる。(p20)

現代の人類も、これから多くの未知の遭遇に出会うことだろう。それは新種の生物かもしれないし、はたまた地球外生命体かもしれない。未知の生命体に遭遇した時、我々人間はそれをどのように解釈するのであろうか。

 

常識は変わり続ける

恐竜研究も加速度的に進化している。本書には記されていないが、つい数ヶ月前にある種の恐竜の卵が、緑色だったりウズラの卵のように模様があったことが判明した。恐竜の分類・生態・進化などのあらゆる常識が日進月歩で変わり続けているのである。

最近まで、博物館の組み上げ骨格や、恐竜の復元図などでは、獣脚類の手のひらは地面を向くように復元されていた。しかしこの復元は、すべての骨が本来の位置に保存されている骨格から考えられる手の向きとは矛盾することが分かってきた。これら交連骨格では、手のひらは下向きではなく、内側を向いているのだ。〈中略〉

つまり、獣脚類は、両手を胸の前で合わせる「拍手」のような動きによって獲物を捕らえたのであり、手のおもな用途は物をつかみ取ることだったと考えられる。(p90〜91)

この事例も面白い。なぜなら手のひらの向きによって恐竜の見え方が全く変わってくるからだ。手のひらを下に向ければ、その鉤爪によって、まるでお化けのように見えてしまうことは容易に想像がつくだろう。

固定概念に囚われず、新たなアプローチで見ることによって私たちは常識を覆すような発見をすることができるのだ。

 

多様性があるから絶滅しなかった

恐竜研究の中でとりわけ関心が高いことは、絶滅に関することだろう。ただ、これについても私たちは常識を改めなくてはならない。なぜなら、恐竜は絶滅していないことが今の常識だからである。補足すると、恐竜類のなかのいくつかの鳥類の系統が生き延びたということだ。

我々人間はこれからどこまで繁栄することができるのだろうか。地球規模の気候変動や地球外物体の衝突があっても、種の多様性があったから生命は生き残ることができた。人間は異なる種にはなれないが、その多様性を受け入れていかなければ、ヒト科は繁栄を続けることができないだろう。

 

恐竜の教科書: 最新研究で読み解く進化の謎

恐竜の教科書: 最新研究で読み解く進化の謎