みやしろ町から

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マンモスは蘇るのか

絶滅種を再生させる試みは、世間から大きな注目を集める。それがマンモスならなおさらだろう。東京都江東区にある日本科学未来館では、現在「マンモス展」が開催されている。(2019.6.7〜2019.11.4まで開催)

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今回はそれにちなみ、ベン・メズリック 著,上野元美 訳『マンモスを再生せよ ハーバード大学遺伝子研究チームの挑戦』(文藝春秋、2018)を読んで、合成生物学という比較的新しい生物学分野の最前線を追っていく。

 

マンモス再生の重要な意義

「氷河期パーク」という名称はジュラシックパークを彷彿とさせる。ただし、映画のように商業的な目的を有しているわけではない。なぜなら、マンモス再生計画にはそれを世間が認めるだけの意義が必要になってくるからだ。

それが永久凍土の融解を防ぐという目的である。永久凍土が解けると、大量の二酸化炭素とメタンが大気に放出される。それによって地球温暖化が急速に進行してしまうのだ。

草食動物が表土を掘り返し、踏みならして、永久凍土を冷気と風に常にさらすことができれば、その下の凍土は冷え、貴重な永久凍土を保持できる。比較的暖かい時期には、木を切り倒し、牧草を刈って、地表面の光の反射率を上げ(アルベド効果)、更新世後期、いわゆる氷河期の環境の復元を目指す。〔p122〕

永久凍土を守るためには森林を拡大させないことが重要だという。少し意外に思うかもしれないが、森林や低木地は一年を通して黒い色をしており、太陽熱を吸収してしまうのだという。実際に、チェルスキー北東科学センター所長のセルゲイ・ジモフは何種類かの動物とマンモスの足の代わりとなる戦車を用いることによって、160万㎢の保護区の永久凍土の温度を平均8℃下げることに成功した。

 

マンモス再生の仕組み

再生計画と聞くと、ジュラシックパークの研究室を想像させるが、実際にはマンモスのクローンをつくるわけではない。簡単にいえば、「ゾウをマンモスにする」という方法である。

マンモス再生の戦略として、実際には上述のように「アジアゾウのゲノム改変」という"比較的"現実的な選択肢をジョージは採用しているが、GP-write(ゲノム合成国際プロジェクト)のミッションが進めば、ゲノムの改変ではなく、ゲノムをまるごと作って、そのゲノムで生きるマンモス細胞を作るという、現在では不可能な選択肢も可能になる。〔p299〜300〕

それは生命の創造である。ジョージ・チャーチを中心として、合成生物学という分野の最前線でどのような研究が行われているかを知ることは興味深い。生命の創造は、果たして「神の領域」に足を踏み込んでいることを意味するのであろうか。

 

最先端生命科学の未来

現在もマンモスだけではなく、多くの絶滅種の再生計画が研究されようとしている。ただ、絶滅種の復活には人類にとって重要な意義がなければならない。また、遺伝子改変によって誕生した種が、既存の種の繁栄をいとも簡単に終わらせてしまう可能性があることも考えなくてはならない。それが目に見えない微生物であればなおさら慎重さが求められる。私は高校生の時、映画「アウトブレイク」(1995年公開)を見たが、その衝撃は忘れられない。

遺伝子編集には大きな可能性がある。本著にも登場する、ルハン・ヤンは2018年にTEDで、「臓器提供を待ちながら亡くなる患者がいない世界を作るために」というスピーチを行なった。研究の進歩によって世界で病気に苦しむ多くの人を救える可能性がある。私たちは生命科学について、その倫理的課題と向き合いながら、生命のあり方について考え続けていかなければならない。

 

マンモスを再生せよ ハーバード大学遺伝子研究チームの挑戦

マンモスを再生せよ ハーバード大学遺伝子研究チームの挑戦