みやしろ町から

大学生が「日本のこれから」を考えるブログ

日本のムスリムと共生するために

私の住む宮代町に隣接する埼玉県春日部市に、日本のモスク第1号である、一ノ割モスクがある。日本の中でムスリム社会が意外にも身近なところにあるのは興味深い。皆さんの住む街の近くにもモスクはあるだろうか。

今回はイスラーム教と日本社会に注目して、日本のムスリム社会の現状と問題を明確にしたうえで、それらををどのように認識すべきか考える。

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ムスリム社会が抱える新たな問題

日本社会が、イスラーム社会あるいはムスリムと直接的な交流を本格的に始めたのは,幕末から明治初期にかけてであるが、その後日本にムスリムのコミュニティが形成されていった。その後バブル経済期には労働力として大量のムスリムが日本に流入し現在に至るが、ムスリムが日本に定住化する動きは確実に進んでおり、これは日本のモスクの増加からも読み取ることが出来る。1935年に日本で初めてモスクが建設されたが、2000 年代の急増期を経て,現在では国内各地に80以上のモスクが存在するのだ。さらに、2011年には日本で11万人以上のムスリムが暮らしているという統計がある。

ただ注意しなければならないことは、ムスリムの日本定住=ムスリムとの共生であると必ずしもいえるわけではないということである。ムスリムと共生するということは互いに価値観を理解し合い、お互いが自らのアイデンティティを失わずに生活していくということではないだろうか。

そんな現状の中、桜井啓子さんは著書の中で、日本のムスリム社会が新たな問題を持ち始めたということを主張している。つまり、これまでイスラーム圏出身の労働者達をめぐる日常は、主に労働条件や人権の側面から論じられてきた。もちろんこれは日本で生活するムスリムにとって基本的かつ重要な問題であることは間違いない。しかし、定住化が進む中でそうした問題とは別に、彼らは日本という非イスラーム社会で、どのようにすればムスリムとしての宗教的義務を果たしていくことができるのか、またどのようにすればムスリムとしてのアイデンティティを子供達に継承させることができるのかという新たな問題が出てきたということである。

日本のムスリム社会 (ちくま新書)

日本のムスリム社会 (ちくま新書)

 

ムスリムへの配慮の広がり

最近では、ムスリムとしての宗教的義務を果たすことが出来るように、食事や儀礼への配慮が広がりを見せるようになってきた。例えば、2020年に開催される東京オリンピックに向けてイスラーム教徒観光客の誘致の動きは活発に行われていて、千葉県は特に積極的だ。2013年12月20日に開業した日本最大級のSCイオンモール幕張新都心では、グランドモール4Fグランドテラス(屋上展望台)前に「Prayer Room(祈祷室)」を設置している。

また、同じ幕張新都心には専用施設としては日本初となるハラールの食材を扱う食品加工・調理施設も完成した。このように自治体や企業が積極的に動いていく中で、私たち個人は何が出来るのだろうか。もちろんそういった事業に参加する機会があれば積極的に参加するべきだ。また、一般社団法人ハラル・ジャパン協会では、ハラルビジネスに関連するセミナーの主催、講師派遣、企業内研修等を行っている。その他にもイスラームを学ぶ事が出来る機会は日本全国に存在するのだ。

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子供の教育という問題

日本で家族形成を始めたムスリム達が、今最も頭を悩ませているのが、子供の教育である。例えば日本の保育園に娘を預けているあるパキスタン人の男性は、男の子と女の子を隔てなく同じプールに入れたり、裸で日光浴をさせたり、お昼寝をさせることに強い抵抗を感じているという。今はまだ小さいのでなんとか許容できるが、小学校に入学したらこれではいけないと悩んでいるとこの男性は話している。日本は男性と女性は対等な関係、つまり平等であると考えているので、ムスリムの人達にとっては強い抵抗を感じるかもしれない。私はその点ではムスリムとの共生には限界が存在するように感じた。

ただ、宗教的義務の履行にどれだけ関心があるのかは人それぞれ異なることも考慮しなければならないだろう。ムスリムだからという枠で考えて特別扱いをしてしまえば、それは尊重ではなくただの押しつけになってしまう可能性がある。よって個別に対応していかなくてはならないだろう。これからの教育現場では、異なる宗教を持つ子供と接する機会が増えていくかもしれない。その中で一緒に過ごしていくためには親との丁寧な対話が必要不可欠であると同時に、生徒の理解も大切だ。つまり、日本に住むムスリムと共生していくためにはそれぞれの人がイスラーム教という宗教に対して、どれだけ関心を持っているのか理解して接していかなければ、隔たりを解消していくのは難しいであろう。

ところで、このような問題に直面することがないように、インターナショナルスクールを好む人も多い。その理由は、様々な宗教をもつ子供がいるため、宗教に対する理解が得やすいだからだという。しかし、私は普通の学校で日本の子供達とムスリムの子供達が一緒に学ぶ姿が望ましいと思うし、それが本当の意味での共生に繋がっていくのではないかと考える。よって、私たち一人一人がムスリムを正しく理解していくために、教育の中でもムスリムへの理解を目指していくべきだろう。

 

ムスリムと共生していくために

桜井啓子さんは著書の結びで、「現時点で大切なことは、まずはイスラームについて『学ぶ』ことなのではないか」と述べているが、共生を目指していく上で、私たちはここからもう一歩進まなければならないと考える。つまり、イスラームを理解した上で、何かアクションを起こしていかなければならないということである。東京オリンピックの開催が決まったことで、国や自治体・企業が今改めてムスリムを注目するようになってきた現在、ムスリムとの共生について見直し、行動していく大きなチャンスを迎えているのではないだろうか。

 

【参考】

  1. 桜井啓子『日本のムスリム社会』(ちくま新書、2003年)
  2. 店田 廣文、岡井 宏文「日本のイスラームムスリム・コミュニティの現状と課題」(『宗教時報』、2015年)
  3. 一般財団法人ハラル・ジャパン教会 <http://www.halal.or.jp/
  4. 佐久間朋宏「ハラールを合言葉にイスラム圏と日本の架け橋に」<http://global.innovations-i.com/article/24.html