ジブリ作品を社会科教材に【耳をすませば】
ジブリは宮崎駿や高畑勲をはじめとする巨匠らが中心となりスタジオジブリが生み出した、後世に引き継がれるべきアニメーションである。
そんなジブリ作品を私は社会科教材として活かすことができないかと考えた。今回紹介するのは、私が教育実習の時に実際に用いた題材である。
授業のテーマは「高度経済成長」。1955年(昭和30年)から73年までの間、年平均で10%程度の経済成長を続けた時期である。そしてこの時期には国民生活が大きく変わった。池田勇人内閣の所得倍増計画により所得は増え、電化製品が家庭に普及した。そして今回取り上げる作品、『耳をすませば』の舞台のように、大都市の郊外には団地が大規模に建設されたのだ。
高度経済成長の弊害
『耳をすませば』の作中では、月島雫がつくった『カントリー・ロード』の替え歌が登場する。
『コンクリート・ロード』
コンクリート・ロード
どこまでも 森を伐り 谷を埋め
ふるさとは コンクリート・ロード
本作の舞台は東京都多摩市の聖蹟桜ヶ丘とされている。そしてその場所では高度経済成長期に大規模な開発が行われた。丘の木々が切り倒され、大規模な住宅街が建設されたのだ。月島雫の作った替え歌はその事実を暗示させている。高度成長によって生活はたしかに豊かになったが、失われたものも大きかったのだ。
社会科教材に落とし込む
もちろん上記の歌を紹介するだけでは社会科の教材としては不十分だ。なぜなら生徒の中には、本作を知らない人もいるだろうし、学校授業で取り上げるべきことは「事実」でなければならないからだ。
では空想のアニメーションをどのように事実に落とし込むべきか?それは実際の地図を使って開発の変化を示せばいいのだ。時系列地形図閲覧サイト「今昔マップon the web」は社会科教材として是非活用したいサイトである。本サイトを利用して高度成長期の開発の実態を見て見よう。
本サイトではそれぞれ異なる時期の地図を比較しながら見ることができる。地図を拡大して、実際に読み取りをさせると良いだろう。地図の読み方の勉強も同時にできるので、地図は教材として活用しやすい。
左が高度成長前の1944~1954年の地図、右が高度成長後の1975~1978年の地図である。実際に聖蹟桜ヶ丘駅周辺の地図を見比べてみると、事実として「森を伐り 谷を埋め」られたことが分かるのだ。こうして初めてジブリ作品が生きた社会科教材になるだろう。
【参考】
- スタジオジブリ『ジブリの教科書9 耳をすませば』(文藝春秋、2015年)
- 今昔マップon the web〈http://ktgis.net/kjmapw/〉