みやしろ町から

大学生が「日本のこれから」を考えるブログ

むかわ竜はこうして発掘された

現在、東京国立科学博物館では特別展として、「恐竜博2019」(7.13〜10.14まで開催)が開催されている。私はこれから行くつもりだが、この展示の目玉はなんといっても、日本古生物学史上最大の発見である、むかわ竜(愛称)の全身復元骨格だろう。むかわ竜はいわゆるハドロサウルス科の恐竜である。今回は、恐竜博に行く前に是非読んでみたい本を紹介する。それは、土屋健 著,小林快次 他2名監修『ザ・パーフェクト―日本初の恐竜全身骨格発掘記』(誠文堂新光社、2016)である。

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※本書口絵より引用。死んだ遺骸(口絵上部)は海に流された。むかわ竜が発見できたのは、その土地が隆起しているからだ。口絵はイメージ図であるが、小林快次氏の監修も入っているのでかなり正確に近いであろう。

 

アンモナイトの聖地で

北海道は世界的に見ても、アンモナイト化石の産出地として有名だそう。とりわけ有名なのが、「異常巻きアンモナイト」であり、日本古生物学会のロゴマークにも使われている。そんな北海道穂別で発見されたむかわ竜の化石がどのように発掘されたのか、研究者だけでなく様々な立場の人のストーリーが本書には収録されている。

情報は「秘中の秘」とすべきだった。櫻井が町長に報告した文章は「秘」扱いとされた。そしてこの化石については公式発表まで「恐竜」という言葉を使うことをやめ、発見場所の地名から「稲里化石」という仮の呼び名がつけられた。(中略)

北海道胆振総合振興局森林室からは、「林道斜面の改修」の許可を取った。ただし、「改修」という作業には、発掘のための樹木の伐採と、発掘が終了してからの植林という作業も含まれていた。〔p162〜163〕

このエピソードは興味深い。盗掘を防がなくてはならないのはもちろんのこと、発掘をするためのスペースを作るために、周辺の木々を伐採し、車を入れるための道を整備しなくてはならない。そこには、私たちが想像するような河原や露頭で行う「化石採集」ではなく、何年もの歳月をかけて、大人数で行う「化石発掘」の現場の様子を垣間見ることができる。

 

新発見までのタイムラグ

かつては、日本から恐竜の化石は出ないと言われていた。しかし、現在では日本各地から恐竜の化石のが発見されている。今後も、状態の良い、優れた標本となるような化石が日本で発掘されるかもしれない。

そんな中で、私たちも恐竜に関する基本的な知識を備えておくと、より一層楽しむことができるだろう。例えば、近年における恐竜の学術的な定義は、「トリケラトプスイエスズメの最も近い共通祖先から生まれた全て」である。この定義から、改めて現在繁栄している鳥類の祖先が恐竜であることを再確認することができるだろう。以前記事で紹介した書籍『恐竜の教科書』も参照されたい。最近では恐竜に関する書物もかなり充実してきている。

 

tymyh1123.hatenablog.com

 

むかわ竜の発見は実に偶然であった。加えて、古生物学に限らず、様々な学問の新発見は、それが新発見と判明するまでかなりのタイムラグが生まれる。むかわ竜をとっても、その化石の発見は2003年だったが、それが恐竜の化石だと分かったのは、8年後の2011年なのである。それまでは収蔵庫にしまわれており、調査の順番待ちをしていたのだ。実は新発見の例は往々にしてそのようなパターンが多い。学問史を揺るがすような資料が、まだ全国の博物館の収蔵庫で眠っているかもしれないのだ。

そんな新たな発見に期待を寄せながら、博物館の置かれる人手不足や収蔵庫不足、お金不足に目を向けながら、知の宝庫である博物館を存分に堪能していきたい。

 

【参考】

  1. 恐竜博2019公式サイト〈https://dino2019.jp/index.html