みやしろ町から

大学生が「日本のこれから」を考えるブログ

砂漠に対するイメージが変わる

私たち日本人が砂漠についてよく知らないのは当然である。なぜなら、日本の国土のほとんどは温帯湿潤気候に覆われてており、日本から一番近いゴビ砂漠でさえ、(東京都には日本で唯一「砂漠」と表記される場所があるが)中国の内陸部まで行かなければならないからだ。

ただし、それが私たちが砂漠を理解しなくてもよい理由にはならない。私たちは南極大陸が世界最大の砂漠であることすら知らないのだ。本書を読むことで、砂漠のイメージは180度変わるだろう。

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砂漠の多様性

本書を読み進めていくと、砂漠では私たちの想像を超えるほどの多くの動植物が、その過酷な環境に適応して生きていることがわかる。また、ベルベル人アボリジニを代表するような多くの民族が人類が文明を築く前から砂漠に生きていて、彼らの残したペトログリフ(洞窟壁画など)の芸術の荘厳さを感じることができる。

ただ最近問題なのが、崇高な彼らの文化が観光用として利用されていることだ。TBSの「クレイジージャーニー」やテレ朝の「ナスDの大冒険」を見たことがある人なら共感されるかもしれないが、偏狭な地に暮らす部族でさえ、携帯電話などの文明の利器が浸透し、生活の画一化が進んでいるのだ。そのような環境下で、彼らは観光客のために観光部族として伝統的な文化を演じる。私たちは砂漠文化にあまりにも古典的なイメージを持ちすぎてはいないだろうか。彼らは政府から生活区域を国有地として奪われ、貧困に苦しんでいるケースも多いという。

 

何も無い空間から生まれるもの

砂漠について私たちが見失いがちなことは、世界三大宗教のルーツが砂漠にあることである。加えて注目すべき点が、それらの宗教が一神教という共通点を持つことだ。

砂漠はその肉体的な苦しみから神への依存が生まれること、そして物質的・感覚的に内省を妨げるものがないことから、精神の浄化や覚醒の場として見なされるようにもなった。(中略)

つまり、物質的な満足の欠如は神への集中力を高め、肉体的な過酷さは精神の強さを生み出すというわけだ。そして感覚を刺激するもののない、漠然と広がる隔絶した空間は、魂にとっての訓練の場となり、神の前で自立できるかどうかの力が試される。〔p109~110〕

例えば木々や山々が広がる大地で一神教は生まれただろうか。きっと答えは否だろう。宗教が生まれる当時を生きた人々にとって、砂漠はただの不毛な土地ではなかったのだ。つまり、砂漠がなければ宗教で結ばれる民族共同体が生まれなかったかもしれない。さらにいえば、砂漠は何もないからこそ、遊牧民にとっては広大な生活圏となり、国家にとって砂漠は国家間の緩衝地域となり得た。砂漠の存在が人類の歴史に大きな影響を及ぼしたことは明白だろう。

 

砂漠は地球の最期の姿ではない

私たちが「砂漠化」を想像すると、砂丘が広がる大地を想像するかもしれない。ただ、あなたの想像するその景色は地球システムから考えると、人間の影響に関わらず、当然なるべくしてなった景色なのだ。

別の例を挙げると分かりやすいかもしれない。氷河が崩れる映像を見て、それが温暖化の進行を表していると捉えるのは誤解だ。氷河は常に移動しているため、融解する気温の所まで氷河が流れれば、それが崩れ落ちるのは当然なのだ。問題なのは、その氷河が崩れる場所が、どんどん上流へと移動していくことなのである。

砂漠化とは、真の砂漠と境を接する半乾燥地帯の劣化のことで、これはたいてい人間の活動によって生じるものであり、まったく違う方法で形成される真の砂漠と混同すべきでない。「砂漠は高度に適応した独特の自然生態系で、地球上のさまざまな生命維持に役割を果たし、他の生態系とまったく同じように人間集団を支えている」〔p197~198〕

砂漠は本来、地球規模のダイナミズム(大気循環や海流の影響)によって形成される。一方で砂漠化は、過放牧や森林伐採、農耕・灌漑による塩類化、大規模な採鉱など、人間の活動によって進んでいくのである。

一方で最近では、砂漠の利点を生かして、太陽光発電所の設置や宇宙へと向ける高性能な望遠鏡の設置場所、その他大規模な実験場として活用されている。砂漠地帯でどんなことが行われているか注目すると面白い。例えば宇宙旅行会社ヴァージン・ギャラクティック社が、ニューメキシコ州に建設した世界初の宇宙旅行用の発着施設、「宇宙港」もその東京ドーム1500個分の広大な敷地が砂漠地帯にあったからこそ建設できた。

私たちはこれまで砂漠をネガティブなイメージで捉えすぎていたかもしれない。(それはきっとゴビ砂漠タクラマカン砂漠から運ばれる黄砂のせいだか。)結局何が言いたいのかというと、砂漠は想像以上に面白い場所なのだ!!

 

図説砂漠と人間の歴史 (シリーズ人と自然と地球)

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